和裁士 平山留美さんに学ぶ。お誂えの醍醐味! 其の3 〜Before・Afterを見比べてみよう〜

和裁士 平山留美さんに学ぶ「お誂え」シリーズ。
其の1・其の2では「着物お仕立てのイロハ」ということで、着物の構造についてや、お仕立てに大事な寸法についてご紹介いたしました。
其の3となる今回は「平山留美の きものサロン」で、お持ちの着物の仕立て直しを依頼された方のBefore・Afterを覗き見!
お仕立てで変わる着心地についてご紹介いたします。
着物は究極のサスティナブル衣服!
〜和裁士 平山留美さんに学ぶ。着物お仕立てのイロハ 其の1〜 はこちら⇩
URL:https://www.kimonoplus.com/columns/1057/lang/ja-JP/20
和裁士 平山留美さんに学ぶ。着物お仕立てのイロハ 其の2
〜寸法・仕立て を学ぼう〜 はこちら⇩
URL:https://www.kimonoplus.com/columns/1070/lang/ja-JP/20
【目次】
1.仕立て直しの依頼人
2.Before・Afterを見比べてみよう
3.廣谷さんの感想
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1.仕立て直しの依頼人
今回 仕立て直しの依頼に来られたのは、廣谷 晴子(ひろたに はるこ)さん。
子供の頃から着物を身近に感じ、日常的に着用されていました。
30代の頃から茶道を始めたこともあり、着物を着用する機会が多くあったそうです。
現在は着物の販売のお仕事をされているそうで、着物のエキスパートでもあります。

廣谷さんには解消されないお仕立ての悩みがあり、平山さんに相談したところ「私が思う方法で仕立てていいですか?」と提案され、お願いすることにしたそうです。
「本来 着物は洋服と違って体にフィットする様に仕立てるものではなく、多少寸法が合っていなくても着方で調節するもの」と廣谷さんはお考えだったそうです。
「着づらい」という悩みがあって当たり前だと思っていたそうですが、平山さんに仕立て直しをしてもらった着物は綺麗に着ることができ、着崩れもしにくかったので驚かれたそうです。
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2.Before・Afterを見比べてみよう
まず一緒に着物の状態を確認しながらカウンセリングを行います。
依頼者の希望や、仕立て直しの方法など細かく相談・提案をしながら決めていきます。

今回 依頼されるのはクリーニングと、3箇所の仕立て直しです。
早速、見ていきましょう。
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1箇所目
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こちらの着物は仕立てる際、身幅が少し大きめだったそうです。
着てみると裾に向かって膨らみ、広がって見えます。

仕立て直しの処置としては、裾は本来の廣谷さんの寸法で。
そしてヒップ周りだけ、張っている部分の寸法に合わせて広げたそうです。
前身頃を見ただけでは分かりませんが、ヒップ周りと裾の部分で寸法を変えてあり、これぞ「マイサイズ」のお仕立てです。
仕立て直しをしたことで、目に見える変化がありました。

ヒップの張っている部分で寸法を合わせたので、下前の脇線と上前の褄下端(つましたはし)が揃っていて美しいですね。
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2箇所目
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続いての仕立て直し箇所は、脇の「身八つ口(みやつくち)」の部分です。

こちらは生地が擦れて傷んでいました。
仕立て直しの処置としては、肩山から生地を全体的に前へずらしているそうです。
傷んでいた身八つ口の部分は捨てずに、内揚げ(うちあげ/着物の内側で帯の下になる位置にあらかじめ施しておく縫いこみのこと)の中に隠してあります。
これは一度全ての糸を解き、一反に戻すからこそできる処置です。
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3箇所目
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2箇所目で紹介した「擦れ」には、こうなってしまう原因があったんです。
それは、抱き幅が広いためにできてしまう「シワ・生地のもたつき」を直そうと、身八つ口を触るのが原因でした。

廣谷さんも生地のもたつきが気になり、よく写真のように触ってしまっていたそうです。
これが傷む原因だったんですね。

対策としては、抱き幅を廣谷さんの寸法に合わせて仕立て直します。
すると身八つ口を触らずに済み、結果 生地が傷む心配はなくなります。
着物を着る人にはそれぞれの「体型」や「着付け方」「癖」があります。
その人に合わせた「寸法」、また「ライフスタイル」を考慮して仕立てることで着心地の良い一着になりますよ。
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3.廣谷さんの感想
『まず仕立て直してもらった着物を見て、「こんな色だったっけ?」と思いました。
この着物は紬なんですが、裏表使えるのでヤケの少ない裏だった方を表にしていただきました。本来の色が蘇り、とても綺麗になりました。
着物だけ見てもあまり変わったようには見えません。
でも実際に着て、時間が経っても全く崩れてこないんです。
とても体にフィットしているからだと思います。普段なら動く度に崩れていないか確認していましたが、その必要がなくなりました。
生地がかなり傷んでいたので処分も考えていましたが、お願いして良かったです!』

「マイサイズのものを長時間、楽に着てほしい」という平山さんの想いが詰まった仕立て直しとなりました。
『廣谷さんはお仕事でも着物を長時間 着用されるので、負担になって欲しくないし、やはり「着心地が良い」と言われるのは嬉しいですね』と平山さん。
「たくさんの方にマイサイズの着物の良さを感じてほしい」と話されていました。
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今回は、「平山 留美のきものサロン」へ来られるお客様のお仕立て直しBefore・Afterをご紹介いたしました。
寸法を測って仕立てた着物でも、実際に着てみると「着心地がよくない」や「思い通りの着姿でない」ということがよくあります。
平山さんのサロンでは対面でお話を伺いながら、その方の体型に合わせたお誂えをされています。
ただ仕立てるのではなく、着用する方のことを想った「オンリーワンのお誂え」に平山さんのこだわりと技術力の高さを拝見しました!
次回〈お誂えコラム 其の4〉では、雪花絞りで染めた反物を用意し「柄合わせ」という技術を用いて浴衣を誂えていただきます。
仕立て技術の素晴らしさがよく分かりますよ!
ぜひご覧ください!
「お誂えコラム」一覧はこちらから⇩
https://www.kimonoplus.com/hashtag/658/ja-JP/2
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▼プロフィール
平山留美のきものサロン代表
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平山 留美さん
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針を持って38年。
仕立てた着物は5000枚以上。
「お客様から顔が見える仕立て屋」をモットーに、縫って・着て・しゃべれる和裁士として活躍中。
神奈川県元住吉にて、「着物の全てを相談できる場所」を目指した「平山留美のきものサロン」を主宰し、浴衣講座や着付け教室・体験イベント・セレクトショップと熟練の和裁技術を軸に、和裁士の枠を超えた活動をされています。
〜認定資格〜
国家検定1級技能和裁士
東京技能士会理事
東京マイスター
ものづくりマイスター
▼監修
着物仕立 ひらやま
●住所:神奈川県川崎市中原区木月1丁目32号3
●電話:044-752-1629
●HP:https://www.hirayama-sitateya.com/index.html
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▼STAFF
撮影:野中 真希
取材・文:キモノプラス編集部