PAGE
TOP

キモノ+小説 第3回『きもの』

キモノにプラスして着物を楽しむキモノプラス連載企画
今回のテーマは『キモノ+小説』です。

着物や帯が、物語の中に登場するのってワクワクしますよね!
着るのとは一味違うキモノの楽しみ方ができます!

第3回の作品は随筆家、小説家の幸田文さん作の「きもの」(新潮社)です。

https://www.shinchosha.co.jp/book/111608/

ーーーーーーー
内容・あらすじ
ーーーーーーー

明治時代の終りに東京の下町に生れたるつ子は、あくまできものの着心地にこだわる利かん気の少女。よき相談役の祖母に助けられ、たしなみや人付き合いの心得といった暮らしの中のきまりを、“着る”ということから学んでゆく。現実的で生活に即した祖母の知恵は、関東大震災に遭っていよいよ重みを増す。大正期の女の半生をきものに寄せて描いた自伝的作品。著者最後の長編小説。

ーーーーーー
どんな作品?
ーーーーーー

ちょっと昔の作品ですが、令和の時代にも通じる
「女性が自分らしく、美しく生きていくための教科書」になること間違いなしの作品です!
着物好きの方はもちろんのこと、これから成人になろうとしている女性や、子をもつ母親にとっても価値ある一冊です!

いつの時代も変わらず人が歩んでいく「成長のみち」。

令和の時代でも共感する、成長過程で変化する価値観や考え方、成長の中で生まれる葛藤が、明治時代の終わりを舞台に、1人の少女が自由と自立を求める大人の女性へと成長していくライフストーリーを通して描かれており、その成長を写す鏡としての「着物」が情緒的に描かれている魅力的な作品です。

中流家庭の3女として育った主人公の"るつ子"は我慢強く、芯の通った女の子。
親友の成長を目の当たりにし、自分の将来に不安を抱く様子や、初恋のむずむずとした気持ちなど、今の時代も変わらない悩みに、つい懐かしさや共感を抱いてしまいます。

「自分らしく美しく生きていくための教科書」の1面を持つこの作品、
2人の姉がそれぞれ大人の女性へと成熟していく姿を理解できずに戸惑う彼女に、良き理解者で人生の相談役である祖母が、「女性としての立ち居振る舞いや生きる知恵、女性の教え、成熟とは何か」を着物の選び方や着方を通して伝えていきます。

「きもの」というだけで人生を語れることに驚きます!
それだけ昔の日本人女性にとって「きもの」は何より重要な衣服だったんですね。

ーーーーーーーー
作中の着物の表現
ーーーーーーーー

タイトルが「きもの」なだけあって、物語のほとんどの場面で着物が登場します。
その中でも特に選りすぐりのシーンをご紹介します! 

※以降、ネタバレを含む内容になっていますので、ご注意ください!

♦・女学校に入学したるつ子へ祖母が着物の脱ぎ方を教えるシーン。(どうしたら着物を脱ぐ所作が美しくなるかがわかる場面です。)

“着物はいきなり、所かまわずに、ぱあっと脱ぎ散らすものじゃない。引き伸しのござか、衣裳畳紙かの上で、膝をついて、身から離した順に片寄せながら脱いで行き、これとそれとを換える時は、片身片肩ずつ滑らせれば、裸をさらすような下司な形にはならない、と教える”

・音楽会へいく姉の着付けを手伝うシーン。(着物を着る美しい情景がありありと目に浮かびます。)

“かがんで着物をとって、さっとひろげる。胴裏のもみと裾まわしの藤色がなみうつ。かがめた膝の上で襟糸をしめ。立つと同時に着物は表を外に返して濃紫に乱菊のもようが、襦袢の緋をくるんでなお丈長く、裾にあまっていた。ゆっくり袖が通された。姉は鏡の中の自分を見つめたまま。両の手に襟先のあたりを持って、下前を左脇へ上前を右脇へとかき合わせた。腰から足への肉付きに絹の織物はすなおに従って、ふくらみやくびれがやわらかに形づけられた。美しい動作であり、姉は美しい姿だった”

・病床の母の着物を洗濯するシーン。(着物が、その人の人生を語り、親のありがたさが身に染みてくる場面です。)

“洗濯にかかれば、寝巻きもじゅばんも下着も、母のものはみな布がうすくなっていて、たあいもなく手応えもなく、若い手の中にもまれる。きつく絞れば、絞り切ってしまうかも知れないと思われるほど、腰のない布地だった。母を知るおもいがあった”

ーーー
まとめ
ーーー

この他にも、心に響く情景を映し出した場面や着物の美しい所作の場面がたくさんあり、ご紹介したくてもしきれません!
「きもの」が生活の中に溶け込み、自分の分身のごとく成長とともに変化していく様子が描かれたこの作品は、「きもの=人生」と言っても過言ではないのではと思わせる作品です!是非読んでみてください!

■「きもの」新潮社
https://www.shinchosha.co.jp/book/111608/

■キモノ+小説 まとめページはこちら
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
https://www.kimonoplus.com/hashtag/619/ja-JP/2