【対談】着物の「今」を語る 〜前編〜
絵絞庵 福村健さん × 大田子染芸 本郷公崇さん

左:福村さん 右:本郷さん
京都・洛北に工房を構える絵絞庵(えしぼりあん)の二代目 福村健(ふくむら たけし)さん。
同じく京都・上賀茂に工房を構える大田子染芸(たいでんしせんげい)の三代目である本郷公崇(ほんごう きみたか)さん。
もともとお2人が知り合ったきっかけや、着物の「今」についてたっぷりとお話ししていただきましたので、前編・後編に分けてご紹介したいと思います。
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編集部:今回メディアで「作り手さんと着られる方をつなげていきたいな」と思い対談企画を考えました。本日はよろしくお願いいたします!
まずは編集部の方からお2人のご紹介をさせていただきたいと思います。
本日場所をお借りしているこちら、絵絞庵という工房。
こちらで絞り染めを生業に物作りをされています、福村さんです。
最近のトップニュースとしまして「日本伝統工芸展」で親子同時入選されました!
おめでとうございます!!親子入選は大変珍しいんです。
絞り染で第68回 日本伝統工芸展に入選した作家さん、3名の内のお2人ということで今後の「新しい絵絞りの着物の世界」というものを見いだしていく方です。

続きまして本郷さんは、虹染(にじぞめ)といわれる染色技法をお爺さまの代から受け継ぎ活動されている染色作家さんです。
京都の上賀茂神社の摂社である大田神社の氏子さんでいらっしゃるそうで、「大田」の字を頂戴したそうです。
歌舞伎の重鎮 坂東玉三郎さんの舞台衣装も手掛けられていて、着物だけでなく伝統文化に絡んだ活躍もされています。

そんなお2人に色々お話を伺っていきたいのですが、お2人に共通してあるテーマは「後継者の世代である」ということだと思います。
後継者問題が叫ばれる着物の世界ですが、そういった問題に対してどう今を作っていけばいいのか、という部分など伺っていきたいと思います。
ーーーーそもそもお2人は以前から交流があったんですか?
本郷さん:そうですね、最近ですが共通の着物業界の友人を介して知り合いました。
ーーーー初めて会った時のお互いの印象はいかがでしたか?
本郷さん:僕は素朴で物作りに打ち込んでいらっしゃる方だなと。ガツガツしていなくて自然体でソフトな印象でしたね。作品を見ると現れているので納得ですね、色合いとか。親しみを込めて「福ちゃん」と呼ばせていただいています(笑)
福村さん:お名前は知っていてお会いするまでどんな方か分からなかったんですが、デザイナーという第一印象でしたね。おしゃれな方で、クールなのかなと。
お話してみると「笑顔の可愛いお兄ちゃん」という感じでした(笑)家まで送っていただく機会があり、車の中で色んな話ができて距離が縮まりましたね。
ーーーー作家さんどうしの交流はあるんですか?
福村さん:所属するところによりますね。組合に入ってる方だとその中で交流はありますし、うちで言うと日本工芸会に所属しているので、会の活動として研究会やグループ展等の活動もあります。でも基本1人が好きな方が多いんじゃないでしょうか。
本郷さん:この出会いは「福村くんと会わせたい」っていう人がいて紹介していただいたんです。こういうことがあったり、あとは会議とかでしょうか。基本的にあまり交流はないですね。
ーーーー「日本伝統工芸展」を初めて聞く方も多いと思うのですが、凄いことなんでしょうか?
本郷さん:もちろん!凄いことですよ。伝統工芸の世界では最高峰の会だと思います。そこで認められるという事は、公的に認められた領域に達した証だと思います。
そこにチャレンジされてきた福村家の姿勢というか、柱というか。工芸の最高峰を表現する、というところにあると思います。そこで認められるというのは「大きな証」ですね。

ーーーー入選すると証書がもらえるんですか?
福村さん:1回入選すると準会員の、4回入選すると正会員になれる資格を得ることができます。審査・監査もとても公平で公正なものです。一番人間国宝の所属が多いですから、国が認める工芸ジャンルの公募展ということですね。
ーーーー公募展に出展する作品のインスピレーションはどこから得ているんですか?
福村さん:「辻が花」という言葉は、そのまま解釈すると「道の花」という意味なんですが、この辺りは山や川、草花がたくさんあるので身近な自然がインスピレーションの元であり、「辻が花のこころ」なのかなと思っております。
ーーーーお父様の作風とご自身の作風と違う部分があると思いますが、大事に引き継いでいこうとお考えですか?それとも自分の色を出していこうとお考えですか?
福村さん:一番難しいところですね。違う人間ではあるんですが、やはり親子なので似てる部分があると思います。違うことをしようとして思うようにいかなかったこともありますし。「素直に作りたいものを作る」というのが答えなのかなと思います。身近に見ているので否定する事はなく、いいところを見て最大限に活かして作る。
その話を本郷さんと送っていただいた車の中でしましたよね!
本郷さんも似たような悩みを経験されていて、「受け入れた」と仰っていました。それを聞いて「そうか、受け入れたらいいんだ」ってとても気が楽になったのを覚えています。
本郷さん:ありましたね!ある時から川を逆流するのではなく流れに乗るように。
それまでは流れに逆らって必死でしたが、それを波に乗る方に変えると自然な流れになって。自然体でいると2人とも自分らしさが出るんじゃないかな。
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前編ではお2人の関係や伝統工芸展について。
また どういったことを思い、考えながら作品を制作されているのか、お話ししていただきました。
後編では後継者ならではの苦悩の部分を掘り下げて、また着物業界だけではない後継者問題やコロナ禍になって感じたこと。
そして最後に「着物の魅力」についてたっぷりとお話ししていただきました。
どうぞお楽しみに!
▼プロフィール
【絵絞庵 福村健さん】
1980年 京都市生まれ
2002年 同志社大学商学部卒
在学中より父・福村廣利さんに師事
2005年 日本伝統工芸近畿展 日本工芸会新人奨励賞
服飾ブランド「matohu」とのコラボレーション
2007年 日本伝統工芸染織展 入選
2012年 京都府美術工芸新鋭展 入選
2013年 マリア書房『創作市場 染織に遊ぶ』掲載
2021年 第68回 日本伝統工芸展 親子同時入選
【大田子染芸 本郷公崇さん】
染色家
和装品を中心に洋装品や舞台美術・舞台衣装に使用する生地や内装用の生地なども制作
〜代表作〜
●鼓童結成25周年記念 坂東玉三郎・鼓童「アマテラス」
●日本舞踊とオーケストラ –新たなる伝統へ向けて–「プレリュード(沈める寺)」(振付:花柳壽輔/美術:千住博)花柳壽輔、坂東玉三郎(特別出演)
▼STAFF
撮影:岩嵜一真
取材・文:キモノプラス編集部