SNS総フォロワー数6万人超! 人気着物スタイリスト・うさこまさんインタビュー<後編>

着物スタイリストであり、アンティーク着物やリサイクル着物を扱うお店「うさぎ小町」の店主であり、二児のママでもあり、インフルエンサーとしても活躍するうさこまさん。
現代ファッションとレトロな趣をバランスよく取り入れた”青文字系”スタイリングや、枠にとらわれず自由に楽しむ着物スタイルの提案は、10代〜30代を中心とした着物女子から絶大な支持と共感を得ています。
そんなうさこまさんに着物の楽しみ方やSNSの取り組みについて、いろいろ聞いてきました。後編の今回は、お店をスタートしてからの歩み、SNSについて、今後やりたいことなどをお話ししてもらいました。
インタビュー前編はこちら→
https://www.kimono-plus.com/columns/708/lang/ja-JP/1
スタイリストうさこまさんプロデュース!読者さん変身企画
第一弾<憧れの和洋MIXコーデで着物デビュー編>はこちら→
https://www.kimono-plus.com/columns/645/lang/ja-JP/3
第二弾<和洋MIXにプラス!個性派アレンジ編>はこちら→
https://www.kimono-plus.com/columns/664/lang/ja-JP/3
第三弾<お悩み解決!王道・アカ抜けコーデ編>はこちら→
https://www.kimono-plus.com/columns/685/lang/ja-JP/3
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悩みに寄り添う体験談を発信!“好き”がつないだもうひとつの夢
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——前編では、うさこまさんが着物を始めてからお店をスタートするところまで伺いました。お店のオープン後についてはいかがでしたか?
うさこまさん(以下、敬称略):いや〜(笑)。荒波の大海を手漕ぎボートで必死に進んでいるような感覚でしたね。ぎりぎり転覆しないで、やっとどうにか陸に辿りついたかと思ったら、今度は落とし穴に落ちちゃった、みたいなことの連続でした。
勢いだけでお店を始めてしまったということもあって、全然売れなかったんですよ(笑)。それでなんとかしなきゃと思ってSNSを始めたんです。最初は商品の紹介を中心とした写真の投稿をしていて、知識が全然なかったので発信するにも商品についてすごいがんばって調べて。
“正しさ”よりも“ときめき”を大切に始めたお店だったのに、不特定多数の人に向けた途端に“正しいこと”を発信しなくちゃ、となってしまっていた。今振り返ると、売れないという焦り、ちゃんとしなきゃという気持ち、自信のなさという不安ばかりの悪循環。
そんな中で、少しずつ反響をいただけるようになったのが。着物のトルソーコーデの投稿でした。
自分が着ることを考えずに純粋に好きなものを組み合わせていたら、「自分じゃ思い浮かばない組み合わせでした」とか「どうやって着るか悩んでいたけど、こう着ればよかったんだ」とかコメントがついて、すごくうれしかったですね。
そこでやっと、個人のお店は店主の個性とセンスが見えてこそ価値があるということに気がつけた。勢いで始めるから、すぐ道を見失ってしまうんです(笑)。そこから自分を中心にしたブランディングに切り替えたことで、初めて少し道が見えてきましたね。

※うさこまさんが発信したトルソーコーデのひとつ
うさこま:その第一歩として、思い切って自分が画面の前に立つ動画を始めることにしました。顔を出すことへの抵抗は正直ありましたが、顔が見えることで信用度も上がるし、何より“店主が着物を楽しんでいるお店ですよ”ということがダイレクトに伝わると思いました。
発信することも“商品の魅力”だけではなく“自分の体験”をメインに伝えていくことに決めました。 私自身が体験したことは、私にしか話せないこと。実際の経験を通して自分が学んだこと、気づいたことを話すことが一番伝わるし、納得してもらえると思ったんです。だから、まずは自分の経験を増やしていくことをがんばりました。
経験と言ってもウールの着物で映画を見に行ってみたり、雨の日に着物でおでかけしてみたり。こういうシーンではここが着崩れやすいとか、ここが汚れるからこういう対処法をしているとか、そういう暮らしの中での着物の経験。
私は自分が買い物する時も、実際に使った人のレビューをすごく参考にするタイプ。
だから動画では自分がほしいと思って、自分のお金で買って、実際に使ってみて自分がいいと思ったものだけを紹介しています。ありがたいことに、最近ではPRのご依頼もいただくようになったけど、まずは自分でちゃんと使ってみる。そうじゃないとこれまでの全部嘘に見えてしまうので。

※YouTube「うさこまチャンネル」
うさこま:そういったことを続けていたら、今度はSNSや動画にみんなが今悩んでいることについてコメントしてくれるようになってきたんです。
着物を始めて自分なりの楽しみ方はしてきたけれど、そこからどうしていいのかわからなくなってしまっている人が思った以上に多くてすごく共感できました。
私自身も悩んで一度着物から離れた時期がありましたから。自分が悩んでいた時期、誰でもいいから“その先の楽しみ方”をしている人から話を聞きたかった。
だから、私のYouTubeは「着物の入り口」ではなく「入り口を通った後」に立ち止まってしまった人たちのためのものにしました。同じコーデしかできないとか、ちょっと飽きてきちゃった、というような方たちに向けて動画を作り始めたんです。
すると、ありがたいことに、お店へ足を運んでくださるお客さまも自然と増えてきました。動画やSNSを見てくれた方がお店に来て、うさこまさんらしいお店だと喜んでくれる。画面の向こうを初めてリアルで感じて、もう飛び上がるくらいうれしかったですね。
お店に来たお客さまからトータルコーディネートをリクエストしていただいたり、テーマで考えたトルソーコーデを発信したり、自分の好きなことを続けていたら、今度はスタイリングのお仕事で声をかけていただけるようになった。
好きなことって伝わるんだなと思いましたね。小学生のころからの夢がひとつ叶いました。
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似合う着物を見つけるコツ。似合わない着物を着こなす極意
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※キモノプラスの企画でもモデルさんの”ときめき”を大切にスタイリング
——お店に来られる方にはどういうアドバイスをされているのですか?
うさこま:着物に限ったことではありませんが、まずは自分に似合う色柄を知ることから始めています。同じ赤でも似合う赤と似合わない赤があるし、柄の大きさでも印象がかなり違ってきます。似合う色をきちんと知りたいという方には、パーソナルカラー診断を受けることもおすすめしています。
着物をどんどん試着して暗いところと明るいところを移動してもらって、鏡で肌映りを一緒に確認していきます。これが思っている以上に違うんですよ。
似合う色柄を知った上で、やっぱり“ときめいたもの”を手に取っていただきたいと思っています。好きな服って着るだけで自然と気持ちが上がるじゃないですか。ファッションで一番大切なこと。ときめかない服って結局着なくなるんです。
ただ、ときめいた着物がもし似合わない色味や柄でも諦めないでほしいですね。髪型、髪色、メイク、イヤリング、半衿などで調整すれば、8割はどうにかすることができるからです。
顔周りを自分に合う色で固めて“似合わせ要素”を増やしていく。帯揚げを半衿と同じ色にしてみたり、カラコンひとつで一気に似合うこともあります。そういうご相談も多いですね。
それでも似合わない2割にあたる着物は、私の場合は泣く泣く諦めるかな。そこのジャッジは何を重視するのかによりますね。お客さまにもよく問いかけるのですが、好きなものを身につけることを最優先とするのか、着物で歩いているときに客観的に見ても似合っていて素敵ねと思ってもらいたいか。
お店では何枚でも心ゆくまで試着していただいています。ちゃんと納得して買っていただきたいし、買っていただくからには楽しんでほしいから。お客さまは平均で2〜3時間は滞在されますね。
コロナ禍をきっかけに最近、全日予約制にしたのですが、以前よりもゆったりと見ていただけるようになって、パーソナルな質問もしやすくなったとお客さまからもご好評をいただいています。
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届けたいのは日常のひとコマ。着物はもっと自由でいい
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※ラフォーレ原宿のポップアップストアでのスタイリング
——今、SNSでうさこまさんが発信したいことはなんでしょうか。
うさこま:今年の夏にラフォーレ原宿で期間限定のポップアップストアを開きました。
その時に「この間紹介していたコーデを真似してみました」「同じアイテムを愛用しています」「着付け動画参考にして今日着てきました」とか、投稿を見てくれているだけでもうれしいのに、実際に行動に移してくれた人もたくさんいて泣いちゃうくらい感激しました。
私にとって着物は仕事である前に、単純に好きなものなんですよね。
周りに着物を日常的に着る人がいなかったから、みんなはどういう風に楽しんでいるんだろうと純粋にずっと疑問に思ってきた。普通の人が日常レベルで着物を楽しんでいる、このリアルを知ってもらいたいという思いが常にあって、参考にしてもらえるならそんなにうれしいことはない。
だから、自分の店の商品じゃなくても良いものは良いと知ってもらいたいし、気づけて良かったという経験があればどんどん発信していきたい。
お店の接客だけではプライベートな購入品について話す機会はほとんどないので、自分の伝えたいことをまっすぐに伝えられる場所があることはやっていてよかったなと思いますね。

うさこま:私がずっと思っていることがあって、着物と洋服のボーダーラインをなくしたいんです。民族衣装なので特別な着物、伝統的な着物という枠組みはあっていいと思うんですけど、普段着の着物に限って言えば、シャツとかワンピースとかと同列に置きたいんです。
よく毎日着物を着ているの?と聞かれますが、私が着物を着るのは週一くらいの頻度です。着物は大好きだけど、着物だけが好きなわけじゃない。着物はクローゼットの中にあるファッションのひとつの選択肢。そういう感覚で楽しんでくれる人を増やしたいんです。
そのためにはやっぱり日常的に楽しんでいる様子を紹介していくことだと思っていて、私はスタンダードな着方も、アレンジコーデも両方好きだから、どちらかに偏りすぎないような投稿をしています。和洋折衷の個性派アレンジコーデを投稿したら、トラディショナルな着物スタイルも発信して、というように両方をバランスよく。
「私はこんな楽しみ方もしているよ、そんなのもありだと思わない?」と、着物は自由に着ていいんだよという空気をもっと出していきたい。私が発信することで「こんなライトに楽しんでもいいんだ」と安心してくれる人もいると思うので。

※今日のスタイリングのポイントのひとつ、チョコレートの帯留め。 詳細は前編で。
うさこま:動画に対しては肯定的な方もいれば、もちろん否定的な方もいます。動画で伝わることって思った以上にたくさんあって、話し方とか、声のトーンとか、言い回しひとつで印象が変わってしまうこともあるから、怖いと思う部分もあります。
私の動画を見て、そういう着物の着方はしたくないと思う人がいてもいい。すごくいい反応だと思っているんですよ。
その方が私の好きなスタイルは好きじゃないとわかったのなら、ある意味、参考にしていただけているということ。自分がいいと思わないことや、それは違うなというものを受け入れる必要は全然ないですから。
でも、まったく意図しない受け取り方をされてしまうこともやっぱりあって。それについては、そういう風に見える発信をしてしまったんだなと、それはもう毎回、反省と研究の繰り返しです。
私はあくまで楽しみ方の一例として投稿をしていて、決してその意見や感想を押し付けるつもりもなく、ましてや”絶対に正しいこと”として発信しているつもりもないので、自分なりの着物の楽しみ方を見つけるための一つの材料にしてもらえたらうれしいですね。
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着物を次世代へつなげていくために、売り手ができること
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——うさこまさんが着物業界に望むことや思うことはありますか?
うさこま: すごい壮大な質問(笑)。うーん、、、私が言うのもおこがましいのですが、着物を仕事にしている人間としてあえて言わせてもらうなら、今の着物業界は着る人ではなく、売り手に課題があると思っています。
リサイクル着物店でも、歴史ある着物メーカーでも、職人さんでも、着物に携わる人たち全員にきっと共通の思いがあって、それは次世代へつなげていきたいという思いなんですよね。だから、寄り添えるところ同士が手を取って着物市場全体を盛り上げるように取り組めば、もう少しいい形になるのではとは思っています。
日本の誇る文化だからプライドを持ってやっていることはいいことだけど、その反面もどかしく感じることも結構あって。
たとえば、着物が高いというイメージを植え付けられていると感じるなら、自分たちからそれを消すような努力をしないと何も変わらないし、高いものには高いなりの理由があるということも売り手が発信すべきことだと思うんです。
ものづくりができる人、デザインができる人など、みんなそれぞれに与えられた使命があるとしたら、私の使命は”発信すること”。同じ思いを持って、同じ方向へ歩んでいける方とご縁があれば、ぜひ一緒におもしろいことをやっていきたいし、着物の世界を盛り上げていけたらなと思っています。
盛り上がりすぎて、ほしいものが取り合いになっちゃったら、それは正直嫌だけど(笑)。いつかはそうなるくらい盛り上がって、おもしろい業界になったらいいな。
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同世代の着物好きさんたちとこれからも一緒に成長していきたい
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——最後に、うさこまさんのこれからについて聞かせてください。
うさこま:もうすぐ30歳なんですけど、今、私が体験談として話せるのは30歳までのことしかない。たまに40代の着こなしについてご相談いただくこともあって、もちろんできる範囲で答えさせていただくんですけど、まだ経験していないから話に厚みがなく説得力に欠ける。
年齢が違えば悩みも変わってくるし、考え方も少しずつ変化していくと思うんです。自分が20歳のころに想像した30代の自分と、実際にこれから30代を迎える今の自分が違うように、やっぱり想像は想像でしかなく、リアルな経験には及びませんよね。
だから、そのときそのときで悩んだことを解決・提案していけば、今20歳の子が30歳になった時にも参考にしてもらえると思うし、悩んだり、迷ったりした時の道しるべを残していきたいと思っています。
お店に来てくれるお客さんや動画を見てくれる方たちの中でも、とくに同世代の方たちの言葉や存在が今の私の原動力になっている部分があって、同じステージにいる仲間のような親しみを感じています。
みんなと一緒に着物を楽しんだり、悩んだりしながら、これからもっと成長していけたらいいなと思っています。
インタビュー前編はこちら→
https://www.kimono-plus.com/columns/708/lang/ja-JP/1
▼うさこまさん
・うさぎ小町公式サイト https://usagikomachi.com/
・YouTube「うさこまチャンネル」
・Instagram @usagikomachi
▼STAFF
撮影:鈴木ジェニー
文:君島有紀