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「悉皆(しっかい)屋」さんって、何をするところ?

着物を着るようになると、ちょこちょこ目にする「悉皆屋」や「悉皆店」という文字。
「しみ抜きをしてくれるところ?」「着物を洗ってくれるところ?」「寸法を直してくれるところ?」一度も足を踏み入れたことのない人にとっては、ぼんやりとしたイメージはあるものの、”知っているようで知らない”ことが多いのも事実。

そこで今回は、「きもの工房 扇屋」家田貴之さんに「悉皆屋」さんがどんなところなのか、相談のポイントもあわせて教わりました。

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悉皆屋さんの疑問①
ズバリ、悉皆屋さんは何者!?
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そもそも、悉皆屋さんとは、何をするところなのでしょう?
「悉皆屋=しみ抜き屋として捉えられることが多いのですが、基本的にはしみ抜きに限らず、メンテナンスの総合窓口と考えてもらうとわかりやすいと思います」と、家田さん。

「今は、個人のお客さまが着物の相談にいらっしゃる『悉皆屋』が増えましたが、昔からある悉皆業とは、職人や業者をつなぐ役割でもありました。ひとつの着物をつくるとき、生地はどこのものを使い、染め屋さんはどこにお願いして、仕立てはどの和裁士さんに依頼するかをプロデュースする役割ですね。個人のお客さまから相談を受ける場合には、例えば、『寸法を直したい』という要望ならば、着物をほどき、どのくらい生地が出せるのかを確認し、縫い広げる方法を提案します。そして、悉皆屋から和裁士さんに依頼をします。『しみ抜き』の場合も、しみの状態を見て、上手に抜いてくれるであろう、しみ抜き屋さんに依頼をし、戻ってきたものをお客さまに納めます」

しみやカビが目立つ、寸法が合わない、生地が傷んできた……etc、どうしたら良いのかわからないけれど「なんとかしたい」着物の相談処なのが、悉皆屋さんなのです。職人が在籍し、その店でしみ抜きを行うところもあれば、アフターサービスの一貫として悉皆屋さんの機能を持つ呉服屋さんもあります。

しみ抜きを行うのは、国家資格である染色補正技能士の資格を持つ職人さん。「きもの工房 扇屋」の工房では日々、職人さんが着物と向き合い、作業を行っています。

「染色補正技能士の主な仕事は、染めものを直すことです。さまざまな薬品を使い、染織物を修復・修繕することができるので、その技術を利用してしみ抜きをしているんです。1級と2級の国家試験がありますが、2級の試験課題の中に、しみ抜きがあります」

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悉皆屋さんの疑問②
どんなふうに相談すれば良い?
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メンテナンスの相談ができるところ、というのはわかったけれど、初めての相談をする場合に気になるのが相談方法と予算のこと。いきなり着物を持っていっても良いものか、電話で問い合わせるのが良いものか、ファーストコンタクトはどうすれば……?

「私ども『きもの工房 扇屋』の場合、事前に予約をして工房に持ち込まれる方と、着物を郵送される遠方の方とが半々です。いずれの場合も、まずは実際に着物を拝見し、着物のどこにしみがついているのか? 生地が弱っていないか? しみの固さや色など、着物の状態を確認した上で、どのくらいのパーセンテージで修復できるか、作業内容と料金の見積もりをお伝えします」

相談するときのポイントは「このしみを取りたい」「カビで変色したところを直したい」など、「この着物をこうしたい!」という希望を伝えること。すると、悉皆屋さんは「希望を叶えるにはどうしたら良いか?」を考え、お手入れ方法を提案してくれます。

次に気になるのが予算のこと。家田さん曰く「お手入れは、手間がかかればかかるほど、費用もかかります」。例えば、「しみ抜き」の場合。しみがついた段階で早めに相談し、しみがついた場所と、何のしみがついたのががわかっていると、ダイレクトにアプローチできるぶん、費用を抑えられるのだそう。一方、何のしみかわからなかったり、何十年も前のしみだと、しみの原因を探りながらのアプローチになるため、時間も手間もかかるので、そのぶん費用もかかってくるのだとか。

また、「着物を洗う」にも、2種類の方法があります。
ひとつは、手作業で汚れた部分を洗った後、着物をほどかずに機械で洗う「丸洗い」と呼ばれるドライクリーニング(「きもの工房 扇屋」の場合、無地・小紋・紬/7,700円)。もうひとつは、縫ってある糸をすべてほどいて取り、反物の状態につなぎ直して洗い、幅や風合いを整えた後、和裁士さんに仕立ててもらう「洗い張り」(「きもの工房 扇屋」の場合、無地・小紋・紬/19,250円 ※仕立て代別途)。時間も手間も、関わる職人も増えるぶん「洗い張り」のほうが費用がかかります。

「『メンテナンスにあまり費用をかけたくない』ということであれば、重たい作業を行うお手入れは難しくなりますが、希望と予算を伺って、お手入れの組み合わせや優先順位をご提案することもあります。『この着物を着たいけれど、ココが気になる……』そう思われるものがあれば、まずは相談してみてください」と、家田さん。

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悉皆屋さんで着物が生まれ変わる!?
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しみ抜きや汗取り、丸洗いなど、着物の「お手入れ」はもちろん、寸法直しや染め替えなどの「お直し」も相談できる悉皆屋さん。ここでは、「お直し」例のほんの一部をご紹介。

擦り切れた八掛は、まるっと交換することができます。ついでに、色を変えてみるのもおすすめ。ちらりとしか見えない部分でも、ぐぐっと着物の印象が変わります。

「八掛・胴裏交換」費用の目安(「きもの工房 扇屋」の場合)
→90,000円〜(解き+洗い張り+胴裏・八掛交換+仕立て代)

若い頃に着ていた、可愛らしい色の小紋。でも、年を重ねた今はもう少し落ち着いた色の着物が着たい――。そんなときにおすすめなのが「染め替え」。

Afterの写真は、ピンク色の疋田文様と地紋を残し、全体に薄いグレーで無地染めしたもの。大人らしい、上品な小紋に生まれ変わりました。

「染め替え(無地染め)」費用の目安(「きもの工房 扇屋」の場合)
→114,000円〜(解き+洗い張り+染め替え+胴裏・八掛交換+仕立て代)

「お手入れ」も「お直し」も、大切にしたいのは「この着物を着たい!」という気持ち。「この"難"さえなければ、まだ着れる(着たい)のにな……」そんな着物がたんすに仕舞われているなら、一度悉皆屋さんに相談してみてはいかがでしょう?

▼教わったお店
きもの工房 扇屋
染み抜き・洗い張り等の修復やメンテナンスを専門とする老舗悉皆店。1999年より「着物染み抜き教室」も開催し、多くの着物ユーザーに支持を集めている。
東京都中央区湊3-4-5 平田湊ビル3F
TEL:03-6280-4788
https://ougiya.tv/

▼STAFF
撮影:池ノ谷侑花(ゆかい)
編集・文:小西七重