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祇園甲部の芸妓・小芳さんに聞く 京都の花街と着物の楽しみ方(前編)

伝統的な風習を受け継ぐ京都の花街で、芸の道に生きる芸妓さん。
芸妓さんといえば、華やかで美しい着物姿が印象的ですよね。

今回は、京都最大の花街・祇園甲部の人気芸妓の一人、小芳(こよし)さんに、芸妓さんのお着物事情や、京都の花街と着物の楽しみ方について教えてもらいました。

【芸舞妓さんのお着物事情】

芸の道をきわめて13年の小芳さん。
花街の世界に入ることを決めたのは、小学生の頃から習っていた京舞がきっかけだといいます。
中学卒業と同時に置き屋に所属し、2008年に晴れて舞妓さんデビュー、そして2013年には襟替え(えりがえ)して芸妓さんになりました。幼いころから着物に親しんできた小芳さんですが、着付けを覚えるのには苦労したと話します。

「舞妓さんになる前は、京舞のお稽古に行く時しか着てへんかったし、親に着せてもろてたので着方も知りませんでした。しっかりと着るようになったのは、仕込みさん(舞妓さんになるための修業期間)になってから。置き屋さんのお姉さん舞妓さんに教えてもろて。そりゃ最初は汚くて、ぐちゃぐちゃでした。『ここをこうやって、こうする方が綺麗やろ』っていわれても、何がちゃうんやろって。言われてることの意味が分からへんかった(笑)。毎日苦労してましたね」。

そんな小芳さんが着付けの奥深さに気づいたのは、芸妓さんに襟替えしてからのこと。

「芸舞妓さんの着方って自己流やったりとか、教えてもろたままがほとんど。日本舞踊する人と街の人とで着方は違いますし、体型に合わせて男衆さんも教えてくれはります。でも、あるとき芸妓さんの友達が、『やっぱり基本も知りたいから』っていうて着付け教室に通い始めはったんですね。そしたらその影響で、だんだん違いがわかるようになってきて、色んな補正を試してみたり。芸妓さんらしい着方は大事やけど、ちょっとした工夫で仕上がりは全然変わります。着付けは奥が深いですね、その人の体型によって、美しく見える着方が全然違うので」。

芸妓さんになってから、着付けをさらに意識するようになったという小芳さん。
舞妓さんと芸妓さんの着物の違いについても聞いてみました。

「まずは、だらりの帯がお太鼓の帯に変わります。あとは、帯留めがなくなって帯締めに変わったり、簪(かんざし)が変わったりとか。髪型は、舞妓さんの時は地毛で結っていたものが、鬘(かつら)に変わります。ちなみに、芸妓さん襟替えするのは、だいたい二十歳くらいのころ。だんだん大人っぽくなってきて、舞妓さんの恰好が似合わなくなってくるんですね。『えずくろしい(きつい、という意味の花街言葉)、そろそろどうえ。』と周りが言いはじめはったら、お家元さんに許可を得て芸妓さんになります」。

芸妓さんがいつも着ている衣装は、『引きずり』と呼ばれる着物。
小芳さんは、季節ごとに3着ずつほど持っているそうです。

「舞妓さんの頃は置き屋さんからお借りするもんやけど、芸妓さんになるときにはじめて自分でオーダーしました。普通の着物とは寸法が違う特別仕様の着物なので、全部呉服屋さんに言うて、仕立ててもろてます」。

普段は芸妓さん特別仕様の着物を着ている小芳さんですが、この日着ていたのは、明るい橙色が印象的な、はんなりとした雰囲気の素敵な着物。
こちらの着物は、一般の人でも気軽に着られるような着物なんだとか。

「これは、カジュアルな『小紋』よりも少し改まった、けど訪問着よりは格が下の『付け下げ』っていうお着物。幅広く使えて便利やので、お食事会や宴会に行くときとか、パーティーに行くときにおすすめです。歌舞伎やお舞台を観に行くときや、ちょっと格好つけたいときなんかにも」。

【芸妓さんが語る!着物の魅力】

舞妓さん・芸妓さんとして、中学校卒業後からほぼ毎日着物を身にまとってきた小芳さん。
そんな小芳さんが考える着物の魅力の一つが、洋服では似合わない色でも着物だとなぜか着こなせるということ。

「うち水色って、洋服では絶対似合わへんのどすねん。なんか合わへんし、変やし。でも、お着物やったら着られるんです。そういう色って絶対どの人にもあって、不思議なもんどすよね」。

また、着物を着ることで、自然と所作が綺麗になるといいます。

「着物を着ると、自然とスイッチが入って、所作がすごく綺麗になる。また、うちらはお母さんお姉さんにものすごく言われるから(笑)。最初のほうは難しいかもしれへんけど、慣れてくると絶対そういう風になると思うので、自分の違う一面とか魅力に気付けると思います」。

さらに、着物を着る習慣を持つことの大きな魅力として、フォーマルな場や海外に行くときに役に立つことだと話します。

「プライベートでも、行き先によっては、着物で出かけることもあります。海外で着物を着ていて一番よかったなって思ったのは、パリのムーラン・ルージュ(パリを代表するキャバレー)に行ったとき。格式あるレストランなどもそうですが、洋装のルールとか難しいし分からへんから、これは着物で行こうと思って。カジュアルな着物だったんですけど、やっぱりなんとなく扱いが違って、目線が気持ち良かったです(笑)。海外旅行に行くときにも、軽くて畳めるような、カジュアルな着物を一着持っていくとすごく便利ですよ」。

【芸妓さん愛用の着物小物をご紹介】

(上から)A.扇子 B.扇子入れ C.懐紙(かいし)D.印籠(いんろう) E.匂い袋 F.紅入れ G.三角袋

小芳さんに、お仕事やプライベートで愛用している着物小物を紹介してもらいました。

「お懐紙(C)は、お茶席でお菓子をいただくときはもちろん、普段でも、ちょっと何かをこぼしたりして拭いたり、メモとかにも使えるので万能です。三角袋(G)は、お座敷カゴには入りきらない小物などを入れる、サブバック。色んなデザインがあるので楽しいですよ。匂い袋(E)は、箪笥とかに着物をしまっておくときに一緒に放り込んで、お着物に香りをつけておくもの。防虫の効果もあります。印籠(D)も同じく香りづけに使うもので、中に綿をいれて、綿に香りを染み込ませて身に付けます。お着物は直接香水をかけるとシミになるので、こういうグッズで香りを楽しんでくださいね。」

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前編では、芸舞妓さんのお着物事情や、小芳さんの考える着物の魅力についてお話ししてもらいました。
後編では、小芳さんにこれからの芸舞妓さんの世界や、花街の楽しみ方について語ってもらいます。
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【小芳(こよし)】
京都市山科区出身。京都最大の花街・祇園甲部で人気芸妓として活躍する。
小学校卒業後に置き屋に所属し、仕込み・見習い期間を経て2008年に舞妓デビューした。
2013年には、襟替えして芸妓に。プライベートでは、海外旅行や映画鑑賞が趣味。

※プロフィールは、2021年6月の取材時点での情報です。

▼STAFF
撮影:秀平琢磨 (UNPLUGGED)
編集・文:武尾香菜 (エディットプラス)